私は採譜の仕事を長年やっていますが、ギタリストにとってTAB譜無しの五線譜だけでギターを弾くのは、難しいのかを今回述べていきます。
昨今のギタースコアはTAB譜がある事が当たり前ではありますが、月刊現代ギター等のクラシックギターを焦点にした雑誌では五線譜のみしか記載していないケースもあります。
クラシックギタリストにとって五線譜の読譜は当たり前の事でも、ロック、ポップス系のギタリストはTAB譜がないと弾けない人も多いでしょう。
音楽ジャンルは異なれ、五線譜はギタリストにとって本当に適しているか掘り下げていきます。
目次
五線譜だけの問題
まず、五線譜というものは調合が付いてないかぎり、メジャースケールで音程が並んでいます。
つまるところ、ピアノの白鍵だけで音が成り立っているため、五線譜はピアノに適した楽譜といえましょう。
一方で、ギターは全ての音がクロマチック・スケール(半音ずつの音階)で構成された楽器です。
初心者はまず、どのフレットがド(C)の音かを理解しなければならず、そこからメジャー・スケールを覚えなければなりません。
ただ、ギターはピアノと違い、横移動だけで音が変わるわけでなく、上下移動で音が変わるわけですから、それを五線譜を見て弾こうとなると、かなりハードルが上がることでしょう。
五線譜だけでも弾き方は多種多様
仮に五線譜でドレミファソラシドをギターで弾くとしましょう。
弾き方は以下の通り様々あります。
五線譜だけを注目すれば、音階はすべてドレミファソラシドです。
Ex-1は5弦3フレットから上昇したフレーズ、Ex-2は6弦8フレットから上昇したフレーズ。
Ex-3は1小節目は5弦3フレットから横移動したフレーズ、2小節目は6弦8フレットから横移動したフレーズ。
簡単な例ではありますが、これだけでも弾き方が沢山ある上、フレットに適した左手の運指次第で無数の組み合わせがあるわけです。
さて、これをTAB譜無しでギター初心者が簡単に弾けるものでしょうか?おそらく、TAB譜が無ければ、即座に挫折していることでしょう。
極端な例で、短音に限った話をしていますが、2つ以上の音が重なった和音でも同様の事です。
読譜出来ないと不利なのか?
楽譜の読み書きを出来るかどうかが根本的な問題になるかと思いますが、ロック系のギタリストは楽譜の読み書きを嫌うものです(笑)
ギターを始める年齢は多くの場合、10代以上からになると思うのですが、幼少期にピアノを習った経験がないと譜面に対する抵抗があるかもしれません。
初めは、音楽理論が分からないまま、コードやスケールを弾いて覚えるしかないでしょう。ここで、ギターを続けれるかの大きな指標になります。
私の場合は、教本を読みながら手探りの状態でギターを弾き続けましたが、当然ながら理論なんて分かるはずもありませんでした。
ただ、読譜はできなくても、ギターを弾くのが好きという情熱だけで、どうにかなりました。
TAB譜で覚えるのが現実的
こうしてみると、五線譜だけでも弾き方のバリエーションが沢山あるわけですから、TAB譜でフレット指定がある方が明確で分かりやすいと思います。
もし、そうでなかったらギター人口は減っていたことでしょう。
また、コードやスケールの定石となるポジションを覚えるには、最初のうちは絶対にTAB譜が必要となります。
そして、何度も練習する内にギター奏法を覚えたり、たくさんの種類があるコードフォームやスケールポジションを覚えていくわけです。
しかし、ここで落とし穴があります。
TAB譜付きのギタースコアに慣れてしまうと、肝心の五線譜だけのスコアを見ても、よく分からないという罠が…
読譜の訓練をしないがために…
まずは、TAB譜を読んでからギターを練習するのは一般的だと思うのですが、だからといって、それだけで五線譜は読めるようにはなりません。
例えば、コードにしてもTAB譜でフレット・ポジションを覚えることも大事ですが、同時に五線譜を見て、構成音の度数も把握することも同じくらい大事です。
TAB譜だけに着目していては、やはり駄目です。同時進行で読譜の訓練もしないと、いつまで経っても上達はしません。
だからでしょうか、譜面の読めないギタリスト(ベーシストも含む)は他の楽器奏者から偏見を持たれる理由というのは…
理屈じゃなくて感性だと言ってしまえば、根も葉もないですが、譜読みが出来ることに優位性があることは否めません。
コード進行表さえあればいい?
多くのギタリストはバンドマンタイプであることから、ピアニストが見るような音符がびっちり詰まった楽譜ではなく、コードだけが記された譜面があれば十分なところがあります。
コードさえ分かれば、何でも弾けてしまうので、もしかしたら、読譜よりもコードをたくさん覚える方が優先される傾向があるのではないかと思います。
ジャズの世界では、スタンダード曲をセッションするのにテーマとコード進行が記載された楽譜(通称:黒本)を用いることがありますが、バンドで演奏する上で、カッコい良いギターソロが弾けるよりも、リズムギターをしっかりと弾ける事の方が大事です。
いずれにしても、コード進行表だけで曲を演奏するのが完結してしまい、技術的な問題は練習あるのみなので、もしかしたら必要以上に音楽理論の知識などは後回しになる傾向があるかもしれません。
それでも五線譜は必要!
五線譜は他楽器奏者との共通の意思疎通として必要なツールです。
どの弦楽器、管楽器、打楽器でも用いる楽譜は五線譜で、ト音記号かヘ音記号で表記されるかの問題だけです。
各パートにしかない奏法はあれど、アンサンブルに必要なコミュニケーション・ツールであることは間違いないでしょう。
たとえTAB譜の方が分かりやすくあっても、読譜の訓練は怠らない方が絶対に良いです。
TAB譜だけでは分からない五線譜のKey、コードの度数、♯と♭が付くかで変わるスケールなど色々あります。
ギタリストにとって五線譜は適していない場合も多々あるでしょうが、五線譜を通じて学ぶ音楽理論の楽しみも享受できると私は思ってます。